東・南海地震対策として、巨大津波に対応するために堤防のかさ上げが全国的に検討されているところです。
浜松市のある遠州灘海岸では、補助金を活用したコンクリート堤防ではなく、従来からあった今の堤防保安林をかさ上げし、ウミガメの来る自然環境や中田島砂丘の景観を保全するという画期的な判断をしています。
浜松出身の企業である一条工務店が300億円もの私財を寄付してくれたことが、補助金に縛られない対策が可能になったようです。
浜松で地域のために私財を投じたと言えば、金原明善が有名です。氾濫する天竜川の治水のために、私財を投じて、天竜川の河川改修を行っただけでなく、治山のために天竜杉を植林した篤志家です。
浜松のために浄財を寄付してくれた一条工務店、住民の声を受け入れた県や市、これまでも堆砂垣など独自に災害対策に取り組むとともに従来工法を選択した浜松の市民にエールを送ります。
ここで、ぜひお願いしたいことは、「堤防のかさ上げ」だけでなく、「砂丘への砂の補給」を、同時に実施してほしいのです。
浜松は、氾濫を繰り返した天竜川の堆積土砂でつくられた扇状地です。堤防に近接する土地の地下には、砂丘と同じ土砂が大量に埋まっています。水はけがよく、サツマイモや白タマネギの産地になっている畑地帯です。
毎年、海岸浸食により数メートルずつ砂丘が削り取られて、海が近づいてくる危険な状態になっています。せっかくかさ上げした堤防保安林が海岸浸食されたら元も子もない。貴重な砂の資源を海に戻して、堤防のかさ上げと砂丘の保全強化を同時に取り組んでほしい。
カテゴリ:「浜松の海」
以下は、昨日の毎日新聞の夕刊記事です。
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特集ワイド:南海トラフ地震、静岡県の選択 国頼らず独自策「ウミガメの浜、コンクリNO!」
毎日新聞 2013年03月19日 東京夕刊
◇保安林かさ上げ、巨大防潮堤代わり
次なる大津波を食い止めるには巨大防潮堤という選択肢しかないのか。本欄はこれまで、東日本大震災の被災地・宮城県などが進める計画の唐突さや、環境や景色が破壊されることへの住民や識者の懸念を紹介してきた。今回は、近いうちに起こるとされる南海トラフ巨大地震の最前線・静岡県のある「選択」を取材した。【浦松丈二】
人口81万人の浜松市中心部にあるJR浜松駅からバスでわずか15分。遠州灘に沿ったクロマツの保安林が見えてきた。交差点に<ウミガメが来る浜 日本三大砂丘 中田島砂丘入口>の大看板。砂丘は天竜川から運ばれた砂が遠州灘に堆積(たいせき)したもの。そこには春から夏にかけてウミガメが産卵に訪れるのだ。
砂丘を下りると青い海原、白い砂浜が広がる。南海トラフ巨大地震が起きれば、ここにも高さ最大15メートルの津波が押し寄せるというのが県の想定だ。もし、東北の被災地で建設が進むコンクリート製の巨大防潮堤と同じものが築かれれば、美しい砂浜は覆い尽くされる。しかし、静岡県は別の選択をした。浜名湖から天竜川河口まで17・5キロにわたり保安林に土を盛って高さ十数メートルにかさ上げし、防潮堤の役割を担わせようというのだ。盛り土の芯には土砂とセメントの混合物を使うが、緑と砂浜の景観は保たれ、経年劣化がほとんどないというメリットもある。もちろんウミガメが産卵する砂浜は守られる。
防潮堤は国から原則2分の1(災害復旧事業に指定されれば事業費のほぼ全額)の補助金が出る代わりに、位置や施工方法について細かい基準がある。なぜ浜松市は基準に縛られないのか。
「民間企業から大口寄付をいただき、地元の要望に沿った独自の立案が可能になったためです」と県河川企画課の鈴木克英課長は説明する。事業費の全額300億円の寄付を申し出たのは住宅建設大手の一条工務店グループ。浜松が創業の地で、非上場ながら業界トップクラスの受注実績を誇る。
「“万里の長城”といわれた岩手県田老町(現宮古市)の堤防が津波に耐え切れず、一部破壊されたのは非常にショックでした」と同社の宮地剛社長は語る。「限界を超えた力がかかると、コンクリートはポキリと折れてしまう。南海トラフ巨大地震に対応するには、コンクリートよりも盛り土構造の方が優れていると考えています」
県は今夏、2カ所で試験的に建設し、住民の意見を聞いた上で本格着工を目指す。
被災地で進められている巨大防潮堤と官民協力の「静岡モデル」を比べると、そこに浮かび上がるのは国の補助金の使い勝手の悪さだ。
静岡モデルの防潮堤の十数メートルという高さは、国の基準を大幅に上回っている。防潮堤の高さを決める方法は、一昨年7月、国土交通省など関連省庁課長名で出された通知で示された。「数十年から百数十年に1度程度」の津波を防ぐ高さにするとの内容だ。遠州灘の場合、波高は7メートルとなる。県が想定する南海トラフ巨大地震の津波は、前記のように最大15メートルにもなる。国の基準を守っていては、住民が心配する大津波を防げないのだ。
ちなみに同じ遠州灘沿いの浜岡原発では最大19メートルの津波が想定されており、中部電力が高さ22メートルのコンクリート製防波壁を建設する方針だ。
高さだけではない。国の施工基準では厚さ50センチ前後のコンクリートで防潮堤を覆うことになっている。日常的に海水に洗われることを思えば、不可欠の工法ではあろう。だが砂浜よりも奥にある保安林をかさ上げする方式の静岡モデルならば無用になる。
一方、7日の本欄で取り上げた宮城県気仙沼市の大谷地区。砂浜を覆い海までせり出す高さ9・8メートル、幅45メートル、長さ約1キロのコンクリート製巨大防潮堤の建設を県などが計画中だが、気仙沼市は住民からの見直し要求を受け、防潮堤を砂浜から陸側に後退させる「セットバック案」の検討を進めている。ここを含め被災3県では約8200億円をかけて総延長約370キロの巨大防潮堤が計画され、一部は住民合意を置き去りにしたまま既に着工されている。
村井嘉浩・宮城県知事は11日に放送された報道番組で、巨大防潮堤の建設を急ぐ理由を問われ「今は国の予算があるんです。これが3年、4年たつと国の予算が切れます。(予算が切れれば)もう二度と防潮堤を整備したいと言っても整備ができない」と、国の補助金に縛られる復興の難しさを語った。菅原茂・気仙沼市長も住民有志でつくる「防潮堤を勉強する会」で「災害復旧は国から査定官が来て『3年以内につくりなさい』と言う。『すみませんが5年かかります』と言っても通用しない。(もし言えば)それなら緊急性は全くないのではないか、自分のお金でゆっくりやればいいという返事になる」と説明している。
巨大防潮堤は、住民の自主性を圧殺してまで国の意向に追随せざるを得ない被災地行政の悲しいゆがみを、浮き彫りにしているのだ。
確かに静岡モデルには莫大(ばくだい)な寄付金という特殊事情があった。だが、国が補助金の使途や期限を細かく限定せず自治体に任せれば、もっと住民本位の津波対策が可能になるのではないか。さまざまな縛りの原因となっている一昨年7月の通知について、担当窓口の本田直久・水産庁防災漁村課長は「これは技術的な助言であり、具体的な高さは県などが主体的に決めるもの」と話す。しかし、被災地の現場では、まぎれもない国の基準と受け止められている。
「津波を恐れる企業や住民の動きは行政には止められない。だから、住民の意向に沿った施策が求められるのです」。県地域政策課の内山芳彦技監はそう言って地元紙のスクラップを見せた。<津波怖い 市営住宅 浜松沿岸部入居率7・2%減><静岡製作所を縮小 東海地震に備え 金沢に生産拠点><海岸コース 津波の危険 熱海、恒例のマラソン中止>などの見出しが躍る。危機感を募らせた県は来月から「内陸のフロンティア」構想をスタート。東名高速道路よりも内陸側に新設された新東名のインターチェンジを物流拠点として整備。平時は沿岸部からの移転受け皿に、災害時には沿岸部への物資供給拠点として利用する。住民の危機意識をバネにして懐の深い、津波に強い地域づくりを進めようとの発想だ。
県庁1階のロビーに置かれたテレビは国会質疑の模様を映し出すが、政府答弁から切迫感は伝わってこない。金は国が出すが、具体策は地方自治体に任せる−−そうでなければ防災と豊かな街づくりの両立は難しいだろう。』 (引用終わり)
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