ゴリラチョップ事件で心臓の鼓動はさらに高まったが、左折して本部港ターミナルに入るとゆるやかな下り坂。
前傾姿勢とペダルから解放されちょっと楽になり、さっきのは、きっと水着だったんだよねと、自分を安心させる。
鹿児島行きの大型フェリーA-LINE乗り場を過ぎて、ようやく、伊江島行きのフェリー乗り場にたどり着く。
窓口に駆け込み、「間に合いますよね。伊江島往復大人一枚。自転車一台。」。一息で言う。
「1,370円です。自転車は隣の窓口で。」と、手際よいけど、そっけない。
間に合いますよーなんて、笑顔を求めるのは過剰な期待なのだ。
でも、自転車の切符は、客を隣の窓口に並び直させなくても、手を伸ばせばそこにあるじゃん!と思う。
ゆり祭り開催時にはフェリーの臨時便を出すよう改善されたが、窓口は7年前と同じ。
ナップサックから時計を取り出すと、8時50分。体内時計は5分進んでいた。
よかった。疲れがどっと出た。
自転車をフェリーの愛想のいいお兄さんに預けて、階段を上がっていき、デッキに出た。
お客さんは、伊江村の人、仕事の人、観光客、外人、軍人の5タイプにいるようだ。
若い軍人は筋肉モリモリのマッチョマンで、これから伊江島で訓練なのか、巨大なリュックサックを背負っている。
リュックサックのおろし方、背負い方が、カッコいい。
普通、登山者は、斜面の傾斜を利用して、重たいリュックを背負ったまま地面に寝て、カラダだけ起き上がる。
背負うときは同様にリュックの上に仰向けに寝て、両腕を通して背負い、前かがみになり、どっこいしょと背負う。このとき、時々よろける‥。
まるで、仰向けになったカメが起き上がるようなやり方は、あまりにも無防備で軍隊では禁止されてるのだろうか。
若い軍人は、背負い投げのように、頭の上から、回転させて前方にリュックを降ろす。
背負うときは、逆に、リュックに両腕を入れてつかみ、頭上に抛り上げて、背中に着地させる。
乱暴だけど、短時間で脱着でき、見事なものだ。普通の人がやると、腰を痛めるにちがいない。
さりげなく、みんなの前で披露して、室内に消えていった。
彼の得意技をこっそり見せてくれ、歓声を期待していたのだろーか。
米国軍人の強さと訓練の成果を、大衆の前で披露するように上司から命じられていたのだろーか。
陽の当たるテーブルに、サングラス姿の外人グループがコーラを飲んでいた。
サングラスが似合うよね。でも日に焼けていないよね。
私の横隣にも、サングラスをかけ、英字雑誌を読んでいるジェントルマンがいた。
私だって、負けていない。結構浅黒く日焼けしているし。
メガネの上から装着できる、一回り大きいオーバーグラスをかけてるから、威圧感出してるはず。
乱視対応の遠・近両用メガネに、仮面ライダー型のサングラスを加えた日本人メガネの最強セットなのだ。
でも、本は持っていないので、ケータイでちょっと難しそうなLINEのゲームをやることにした。
日本人は器用なのだ。時間を惜しんで、ゲームで反射神経を磨き、脳を退化させないのだ。
しかし、これが、後で大変なことになるのであった。
左がフェリー乗り場。右に見えるのが鹿児島行きA-LINE。
伊江島が見えてきた。(続く)